国が提示している「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」において、「豊かな感性と表現」が挙げられています。
「いろいろなものの美しさなどに対する豊かな感性を持つ」「感じたことや、考えたことなどを自分なりに表現して楽しむ」といった力は、いわゆる非認知能力と呼ばれるもので、これからの時代を生き抜くために重要な力です。
そんな「生きる力」を育むために大切な「お絵描き」について、気になる始め方や、年齢別の楽しみ方、注意点等をご紹介します。是非参考にして頂けると幸いです。
「お絵描き」で育まれる力
絵を描くためには、自分の意図した方向に、自在に線を描くことができる力が必要です。
自分の意図した方向に線を描く力は、文字を書くためにも重要な力です。たくさんお絵描きをして、しっかりと身につけていきたいです。
3歳以上になれば、形を捉える力や、質感を捉える力、そのための観察力なども磨いていき、より豊かな表現力を身につけていきたいですね。
お絵描きは何歳から?始める目安
目安は1歳頃からです。
お絵描きを楽しむためには、「つまむ」「はさむ」「にぎる」「持つ」といった手指の動きが必要なので、これらの発達が進んでいることが大切です。
また、口による探索行動が盛んな時期だと、クレヨン等の画材を渡しても、お絵描きを楽しむ以前に、口に入れることばかりを楽しんでしまうので、「最近、玩具とかを口に入れることが少なくなってきたかな」ということも、1つの目安になります。
お絵描きの年齢別の楽しみ方・援助のポイント
芸術教育研究所監修、松岡義和著「乳幼児の絵画指導 スペシャリストになるための理論と方法」(黎明書房、2008年) を参考に、筆者が保育士としての知見を交えつつ、1歳~3歳までのお絵描きの楽しみ方や援助のポイントを解説していきます。
- 点描ができる(綿棒、指、スポンジタンポ)
- クレヨンを使ったなぐり描きができる
この段階では、例えば「りんごを描こう」というように、何かをイメージしながら描くというよりは、シンプルに、腕や手首の運動を楽しんでいます。「自分が腕を動かすと、紙に色が付く。不思議だな。おもしろいな。」という感覚で楽しんでいるので、あたたかく見守りながら、存分に楽しませてあげたいですね。
お絵描きデビューにおすすめなのが、綿棒です。線は点の集まりです。いきなり線を描くことは難しいですが、点の練習から始めると、取り組みやすく、線を描く上達もスムーズに進みやすいです。綿棒は扱いやすく、点描の練習に適しています。
用意するもの
- 綿棒2本(大人が使う用、子どもが使う用)
- ペットボトルキャップ2つ
- 画用紙
取り組み方
- ペットボトルのキャップのうち、1つには大豆1個分の絵の具を入れ、もう1つには水を入れる。
- まずは大人が、綿棒に水を含ませ、絵の具をつけて、紙の上でぽつんと点を描いてみせる。子どもにも真似をするよう促す。
- 一緒に点描を繰り返し楽しむ。
- グルグルまるが描ける
- まるい形と四角い形の識別ができる
- 大きい形と小さい形が判別できる
- 画用紙の天地(上と下)がわかる
- 上から下への点描ができる
- 上から下への線を描くことができる
用意するもの
- ミニカー
- 画用紙
- クレヨン
- 青と赤のシール(なければクレヨンで丸を描いても良い)
取り組み方
- 用紙の中央に「芝生」に見立てた楕円形の丸を描く。
- 画用紙の上で、「芝生」を踏まないようにミニカーをぐるぐると回して遊ぶ。
- 画用紙の左下角にスタートの青いシールを、右下角にゴールの赤いシールを貼る。
- 今度は、ミニカーの代わりに、クレヨンで芝生を踏まないように、ぐるぐると回ってみようと伝え、「芝生」の周りにぐるぐると丸を描く。
用意するもの
- 画用紙
- クレヨン
取り組み方
- 画用紙の天と地(上と下)を伝える。
- 画用紙の上で、ザーザー降る雨をイメージしながら、人差し指を上下に動かしてみる。
- クレヨンで、上から下へ降る雨を描く。
- 下から上の線を描くことができる
- 左から右、右から左への線を描くことができる
- 太い細い、長短、強弱を使い分けて線を描くことができる
- まるが描ける
- 筆を使って点や線が描ける
- まるの発展として人物(顔)が描ける
用意するもの
- 画用紙
- クレヨン
取り組み方
草むらをイメージしながら、画用紙の下(地)から上(天)へ向かっての線を、左から右へといっぱいに描く。
「お絵描き」で生きる力を育む
題材を設定したりせず、自由にのびのびと描く経験も大切です。
ですが、いつも自由に描くだけではなく、時には大人の援助も必要です。自由に描くことを楽しむためには、子どもの表現の引き出しを増やしてあげることも大切だからです。引き出しが増えれば増えるほど、より一層、自由なお絵描きも楽しめるようになるでしょう。
また、ただ描くだけではなく、「描きたい!」の原動力になる経験も大切です。「ふりかけおにぎりが美味しかった」「公園の草むらで遊ぶのが楽しかった」というように、心が動く経験です。
「楽しい」「またやりたい」「次はこうしてみたい」といった感覚を大切にしながら、是非親子で様々な経験を、そして表現を楽しんでください。